胃ろう・延命治療とは
老衰や病気が進むと、口から食べたり飲んだりすることが難しくなる時期が来ることがあります。そのとき、人工的に水分や栄養を体に入れる方法を使うかどうかを、家族が問われます。これを広く「人工的水分・栄養補給(AHN)」といい、その代表が胃ろうです。
「延命治療」という言葉には、この人工栄養のほか、人工呼吸器や心臓マッサージなども含まれます。ただ、高齢者の介護の現場で家族が最も悩むのは、多くの場合「食べられなくなったときに、胃ろうなどで栄養を入れるかどうか」です。この記事はそこに絞って解説します。
まず知っておいてほしいのは、これは「する/しない」のどちらかが正しい、という問題ではないということです。栄養を入れれば生きる時間が延びる可能性がある一方、本人にとってそれが望む形かどうかは別の問題です。だからこそ悩むのであり、悩むこと自体が自然なことです。
人工的な栄養・水分補給の種類と違い
ひとくちに人工栄養といっても、いくつかの方法があります。それぞれ体への負担や特徴が違います。医師はこれらの中から、本人の状態に合うものを提案します。
| 方法 | どんなものか | 特徴 |
|---|---|---|
| 胃ろう(PEG) | お腹に小さな穴を開け、胃に直接栄養を送る管を作る | 比較的安定して栄養を入れられる。口や鼻に管がなく本人の負担が少ない一方、造設に小さな手術が必要 |
| 経鼻栄養(けいび) | 鼻から胃まで細い管を通して栄養を送る | 手術が不要ですぐ始められるが、管の違和感があり、本人が抜いてしまうこともある。短期向き |
| 中心静脈栄養(TPN/IVH) | 太い静脈に管を入れ、点滴で栄養を送る | 胃腸が使えないときに。感染などの管理が必要 |
| 末梢点滴 | 腕などの血管から水分・少量の栄養を点滴 | 手軽だが、入れられる栄養量は限られる。水分補給が中心 |
どの方法にも、良い面と負担の面があります。「本人の体にとって、今どれが最も負担が少なく、本人の望む暮らしに近いか」を、医師に率直に質問してください。「この方法を選んだ場合、これからどんな生活になりますか」「本人はつらくないですか」と具体的に聞くことが大切です。
「本人ならどう望むか」を軸にする
家族が決断を迫られると、つい「私が親を死なせる選択をするのではないか」という罪悪感で頭がいっぱいになります。しかし、この決断の主語は本来「本人」です。
考える軸は「家族がどうしたいか」ではなく、「本人だったら、どうしてほしいと言うだろうか」です。次のような手がかりを思い出してみてください。
- 元気なころ、「延命はしてほしくない」「できるだけ自然に」などと口にしていたことはなかったか
- 他の人の最期を見て、本人が「ああはなりたくない」「ああいうのがいい」と言っていたことはないか
- エンディングノートや事前指示書を残していないか
- 本人が大切にしてきた価値観(自分らしさ、家族との時間、苦痛の少なさ)は何だったか
これらから「本人ならこう望んだだろう」と家族が推し量ることを、医療の世界では「推定意思」といいます。はっきりした記録がなくても、本人をよく知る家族が「本人らしい選択」を考えることには大きな意味があります。それは「家族が勝手に決めた」のではなく、「本人の意思を家族が代わりに表した」のです。
人生会議・事前指示という備え
もし今、この記事をまだ切迫していない段階で読んでいるなら、いちばんの備えをお伝えします。それは、本人が話せるうちに、希望を聞いておくことです。
近年は、これを「人生会議(ACP:アドバンス・ケア・プランニング)」と呼び、国も勧めています。難しく考える必要はなく、「もしものとき、どこで・どんなふうに過ごしたいか」を本人・家族・医療者で少しずつ話しておくことです。
- 「もしものとき、延命や人工栄養についてどう考える?」と、折を見て本人に聞いておく
- エンディングノートや事前指示書に、本人の希望を書き残してもらう
- かかりつけ医にも本人の希望を共有しておく
- 一度で決めなくてよい。気持ちは変わってよいので、繰り返し話す
本人の希望が分かっていれば、いざというとき家族が「本人の代弁者」になれます。看取りの場所そのものについては看取りの選択(家・病院・施設)もあわせて読んでおくと、心の準備になります。
一度始めたら、やめられないのか
家族が胃ろうをためらう理由の一つに、「一度始めたら、もう外せない(やめられない)のではないか」という不安があります。
この点について、専門の学会(日本老年医学会)は、「本人にとって最善でないと判断される場合には、いったん始めた人工的な栄養・水分補給を減らしたり中止したりすることも、選択肢として検討しうる」という考え方を示しています。つまり、始めることと続けることは別に考えてよいということです。
ただし、これは非常に慎重な判断を要する領域で、医療チームとの十分な話し合いが前提です。「試しに始めてみて、本人がつらそうなら医師と相談する」という考え方もできる、と知っておくだけでも、決断の重さが少し変わるかもしれません。迷ったら、その迷いも含めて主治医に正直に伝えてください。
家族が後悔しないために
どんな選択をしても、家族の心には「これでよかったのか」という思いが残ることがあります。それでも、後悔を小さくするためにできることがあります。
- 本人の意思を軸にする——「本人ならどう望むか」を家族みんなで考えた、という事実が心を支えます
- 医師の説明を十分に受ける——分からないことは何度でも質問する。納得して選ぶ
- 家族で話し合う——一人で背負わない。きょうだいや配偶者と気持ちを共有する
- 急がされても、時間をもらう——「少し家族で話す時間をください」と言ってよい
- どの選択も、愛情からの選択だと認める——する選択もしない選択も、本人を思う気持ちから出たものです
そして、この時期は介護してきた家族自身も、心身ともに限界に近いことが多いものです。自分を責めすぎないでください。気持ちがつらいときは介護うつを防ぐ方法も読んでみてください。看取りの場としてどこがよいか、最期まで対応してくれる施設を含めて考えたいときは、看取りまで対応できる施設の選び方も参考になります。
自宅での看取りが難しいと感じたら、最期まで対応してくれる施設という選択もあります。
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まとめ:胃ろう・延命治療を決めるときの5つのこと
- 胃ろう・延命治療に医学的な「正解」は一つに決まらない。悩むのは自然なこと
- 人工栄養には胃ろう・経鼻・中心静脈・点滴があり、負担と特徴が違う。医師に質問を
- 軸は「家族がどうしたいか」ではなく「本人ならどう望むか」
- 元気なうちの人生会議・事前指示が、いざというとき家族を支える
- 急がされても時間をもらってよい。どの選択も本人への愛情からの選択
よくある質問
- 日本老年医学会「高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン——人工的水分・栄養補給の導入を中心として」
- 厚生労働省「人生会議(ACP)」「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」
- 厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケア」普及啓発資料
- ※本記事は一般的な情報提供であり、医療行為の推奨・指示ではありません。個別の判断は必ず主治医にご相談ください。