認知症で起きる財産管理の問題
親が認知症と診断されると、日常的な財産管理がさまざまな場面で問題になります。代表的なのが銀行口座の凍結です。本人の判断能力低下が疑われると、銀行が口座の大きな引き出しや解約を制限することがあります。
介護施設への入所費用、自宅のリフォーム、生命保険の解約など、まとまったお金が必要な場面でこの問題が表面化します。「親の通帳はあるのに、お金が引き出せない」という事態になる前に、適切な備えが必要です。
- 銀行口座が凍結され、介護費用が引き出せない
- 不動産の売却・活用ができなくなる
- 悪徳業者の訪問販売・詐欺に遭いやすくなる
- 家族が無断で財産を使うトラブルが起きる
- 相続対策(贈与・遺言)ができなくなる
成年後見制度とは?
成年後見制度とは、判断能力が低下した方に代わって、後見人が法的に財産管理・契約行為をサポートする制度です。家庭裁判所が関与する公的な制度で、法律的な強制力があります。
2種類の成年後見
- 法定後見:すでに判断能力が低下した方に適用。家庭裁判所が後見人を選任する。
- 任意後見:まだ判断能力があるうちに、将来後見人になる人を自分で選んでおく制度。公正証書で契約する。
成年後見のメリット・デメリット
- 家庭裁判所の監督があり、不正を防止できる
- 法的な代理権があるため、銀行手続き・不動産売買・訴訟も対応可能
- すでに認知症が進んでいる場合でも申請できる(法定後見)
- 後見人への報酬が月2〜6万円程度かかり、長期間では高額になる
- 家族が後見人に選ばれない場合がある(弁護士・司法書士等が選ばれることも)
- 家庭裁判所の監督のため、自由度が低く手続きが煩雑
- 一度開始すると原則として本人が亡くなるまで続く
家族信託とは?
家族信託(民事信託)とは、判断能力があるうちに、財産の管理・処分を信頼できる家族(受託者)に託す法的な契約です。認知症になった後も、家族が本人の意思に沿った形で財産を管理・活用できます。
例えば、「父(委託者)が認知症になった場合に備えて、長男(受託者)に自宅と預金の管理を任せる」という信託契約を公正証書で締結します。父が認知症になっても、長男が適切に財産を管理・処分できます。
家族信託のメリット・デメリット
- 家族が柔軟に財産を管理・活用できる(不動産の売却も可能)
- 相続対策(二次相続・障害者の子への財産承継等)と組み合わせやすい
- 後見人への毎月の報酬が不要
- 設定時に司法書士・弁護士への費用が50〜100万円程度かかる
- 身上監護(施設入所の契約等)は対応できないため、成年後見と組み合わせることも
- すでに認知症が進行していると契約できない
- 運用実績が浅く、税務・法務のトラブルが報告されている
2つの制度の比較一覧
| 比較項目 | 成年後見制度 | 家族信託 |
|---|---|---|
| 対象 | 判断能力が低下した方(法定後見は低下後でも可) | 判断能力があるうちに契約が必要 |
| 誰が管理する? | 家庭裁判所が選任した後見人 | 契約で定めた家族(受託者) |
| 財産管理の自由度 | 低い(裁判所の許可が必要なことも) | 高い(信託契約の範囲内) |
| 不動産売却 | 可能(裁判所の許可必要な場合あり) | 可能(信託財産として登記が必要) |
| 費用(ランニング) | 後見人報酬 月2〜6万円 | 比較的低い(専門家監督なし) |
| 費用(初期) | 申立費用 数万円〜 | 設定費用 50〜100万円程度 |
| 身上監護(施設契約等) | 対応可能 | 対応不可(後見と併用が必要な場合も) |
| 相続対策との連携 | 難しい | 組み合わせやすい |
どちらを選ぶべきか?
・すでに認知症が進んでいて判断能力が低下している場合
・家族間で財産管理を任せられる信頼できる人がいない場合
・財産規模が小さく、複雑な管理が不要な場合
・第三者(弁護士・司法書士)が中立的に管理する方が安心な場合
・まだ判断能力があり、将来に備えて準備したい場合
・不動産(自宅・収益物件)の活用・売却を家族に任せたい場合
・二次相続・障害のある子への財産承継など複雑な相続計画がある場合
・長期的にランニングコストを抑えたい場合
申立て・設定の流れを比較する
制度を選んだ後、実際に何をすればいいのか——それぞれの手続きの流れを並べて確認します。
申立て先の地方裁判所に事前相談。必要書類のリストを入手する。
かかりつけ医または指定医師から判断能力の診断書を取得する。
申立書・財産目録・収支状況報告書等を作成し家庭裁判所に提出する。
書類審査(場合により面接)の後、後見人を選任する審判が下る。期間は目安1〜3ヶ月。
後見人が財産管理を開始。毎年裁判所へ財産目録・収支報告を提出する義務が生じる。
信託に詳しい専門家を探して相談。信託の目的・対象財産・受益者の設計を行う。
委託者・受託者・受益者の関係、財産の範囲、信託終了条件を定めた契約書を作成する。
本人が公証役場へ出向き、公正証書として契約を締結。判断能力の確認が行われる。
受託者名義の「信託口口座」を金融機関に開設し、信託財産の金銭を移管する。
不動産を信託財産にする場合は、法務局で信託登記を行う。司法書士が手続きする。
義父が特別養護老人ホームの入所費用として毎月15万円が必要になったとき、突然銀行から「ご本人のご意思が確認できない」として大口の引き出しを断られました。司法書士に相談して法定後見の申立てをしましたが、後見人が選任されるまで3ヶ月かかり、その間は家族が立て替え続けました。「もう1〜2年早く動いていれば家族信託で対応できたのに」と今でも悔やんでいます。
※体験談は一般的なケースをもとにした構成例です。実際の体験談は順次掲載予定です。
母が「もの忘れ外来」で軽度認知症と診断された段階で、司法書士に相談して家族信託を設定しました。自宅と預金300万円を信託財産にし、私(長男)が受託者になりました。2年後に母の認知症が進んで施設入所が必要になったとき、自宅を信託財産のまま売却して入所費用に充てることができました。「あのとき動いていてよかった」という一言に尽きます。
※体験談は一般的なケースをもとにした構成例です。実際の体験談は順次掲載予定です。
父の法定後見を申し立てたところ、財産が多かったこともあり司法書士が後見人に選任されました。毎月5万円の後見人報酬が発生し、父が88歳で亡くなるまでの12年間で合計720万円。家族間の意見が合わず専門職後見人になった経緯があります。もし家族信託を早期に設定していたら、と今でも思います。
※体験談は一般的なケースをもとにした構成例です。実際の体験談は順次掲載予定です。
いつ動き始めるべきか
最も重要なのは、「まだ大丈夫」と思っているうちに動き始めることです。
家族信託は本人の判断能力が失われると設定できません。任意後見制度も同様です。「認知症の診断を受けてから考えよう」では手遅れになるケースがあります。
- 70代前半のうち:家族信託・任意後見の設定を検討する最良のタイミング
- もの忘れが出始めた段階:判断能力の低下が疑われる前に専門家に相談
- 認知症診断後:法定後見を申立て。家族信託は原則不可
父が認知症と診断された翌月、銀行から「ご本人の意思確認が取れないため手続きができません」と言われてパニックになりました。まさか口座が使えなくなるとは思っていなかった。司法書士に相談して家族信託の手続きを始めましたが、もっと早く動いていれば焦らずに済んだと思います。
※体験談は一般的なケースをもとにした構成例です。実際の体験談は順次掲載予定です。
家族信託か成年後見かで兄弟間で意見が分かれました。最終的に母の財産が比較的少なかったこともあり、費用が安い家族信託を選びました。兄弟で事前によく話し合っておくことが本当に大切だと実感しました。
※体験談は一般的なケースをもとにした構成例です。実際の体験談は順次掲載予定です。
父には認知症のほかに持病もあって、複雑な判断が必要な場面が多くありました。家族信託では対応できる範囲に限界があると弁護士に言われ、法定後見制度を申立てました。手続きに半年かかりましたが、公的な後見人が付くことで施設側からも信頼を得やすくなりました。
※体験談は一般的なケースをもとにした構成例です。実際の体験談は順次掲載予定です。
よくある質問
まとめ
- 認知症になると口座凍結・不動産売却不可などの財産問題が起きる
- 成年後見制度は認知症が進んでからでも使えるが、後見人報酬が長期的に高額になる
- 家族信託は初期費用がかかるが、家族が柔軟に管理でき長期コストを抑えられる
- 「まだ大丈夫」と思っているうちに動き始めることが最も重要
- 認知症の診断後では家族信託は原則設定不可——早めの専門家相談が命綱
- 兄弟間の合意形成と透明性の確保が、家族トラブルを防ぐ鍵になる
介護のプロに相談する(無料)
- 最高裁判所「成年後見制度について」→ https://www.courts.go.jp/
- 法務省「成年後見制度・成年後見登記制度」→ https://www.moj.go.jp/
- 信託協会「家族信託(民事信託)の基礎知識」→ https://www.shintaku-kyokai.or.jp/