なぜ徘徊は起こるのか
「徘徊」という言葉は「目的なく歩き回る」という意味を含みますが、認知症の方にとっては必ず何らかの理由があって動いています。「困った行動」と捉えるのではなく、なぜ動こうとしているのかを理解することが、適切な対応への第一歩です。
徘徊の主な原因
- 見当識障害:今いる場所が「自分の家」と認識できず「家に帰ろう」とする。実際には自宅にいても「帰りたい」という
- 過去の役割への記憶:「仕事に行かなければ」「子どもを幼稚園に迎えに行かなければ」など数十年前の記憶が現在の行動を促す
- 不安・居場所のなさ:慣れない環境や刺激への反応として動き回ることで不安を解消しようとする
- 身体的な不快感:便意・空腹・痛みなどを言葉で伝えられないため、体を動かすことで訴えようとする
- 昼夜逆転:夜間に覚醒し、昼と錯覚して外に出ようとする
施設入居直後は環境の変化で徘徊が増える場合があります。慣れるまで1〜2ヶ月かかることも。一方、少人数制のグループホームや認知症専門デイでは、個別対応によって徘徊が落ち着くケースも多く報告されています。
徘徊が危険な理由
2022年の警察庁統計によると、認知症が原因とみられる行方不明者は年間約1万8,000人にのぼります。そのうち死亡確認されたケースも毎年数百人に達しています。
特に危険なシナリオは次の通りです。
- 交通事故:道路に飛び出す、車道を歩く
- 低体温症・熱中症:夏の炎天下・冬の夜間に薄着のまま外出する
- 溺水:川・池・用水路に転落する(農村地域では特に注意)
- 転倒・骨折:段差や滑りやすい道で転倒する
- 遠距離移動:電車・バスに乗って見知らぬ場所まで行き、帰れなくなる
行方不明を防ぐ7つの対策
玄関・出入口にセンサー・アラームを設置する
ドアが開いたときに音が鳴るセンサーや、人が通過したときに反応するセンサーを設置する。夜間の外出をいち早く察知できる。価格は2,000〜1万円程度で家電量販店・通販で入手可能。
鍵を見えにくい位置に変更・補助錠を追加する
認知症の方は目の高さにある鍵は操作できても、足元や上部の鍵には気づかないことが多い。本来の鍵に加え、高い位置(180cm以上)や低い位置(60cm以下)に補助錠を追加することで外出を難しくする。火事の際の脱出も考慮し、緊急時には外せる設計にする。
玄関に「外出しないでください」の貼り紙をする
本人の字で書いたメモや写真入りの貼り紙が効果的な場合がある。「〇〇時に〇〇が迎えに来ます。それまで待ってください」という具体的なメッセージが、漠然とした「外出禁止」より伝わりやすいことがある。
衣類・持ち物に名前・連絡先を記入する
衣類の内側・靴の中・帽子の裏に名前と緊急連絡先を油性ペンやネームテープで記入する。外出時には必ず記入済みの服を着せる。靴に貼るタイプの名前シールも市販されている。
GPSデバイス・見守りサービスを活用する
小型のGPS端末を靴の中・鞄・ベルトに取り付け、スマートフォンでリアルタイムに位置を確認できる。月額数百円〜1,500円程度のサービスが多い。詳細は次章で解説。
デイサービス・訪問介護で日中の活動量を確保する
「やることがない・動きたい」という欲求が満たされていないと徘徊につながりやすい。デイサービスや訪問介護で昼間に十分活動し、夜に疲れて眠れるリズムを作ることが根本的な予防になる。
近隣・商店・コンビニに顔写真と連絡先を共有する
近所の人・商店街・コンビニ・スーパーのスタッフに事前に「認知症の家族がいる」と伝え、顔写真入りのカードを渡しておく。「見かけたら連絡してください」とお願いしておくだけで早期発見につながるケースが多い。
母が夜中に外へ出るようになって、最初は玄関に鍵を1つ追加しました。でも翌週には突破されて。次はセンサーを取り付けて、音で気づけるようにしました。さらにGPSを靴のインソール下に隠して入れたんです。「1つだけでは足りない、組み合わせが大事」とケアマネさんに言われた通りでした。今は警報が鳴ったらすぐスマホで位置を確認できるので、心理的な余裕が全然違います。眠れない夜がなくなりました。
※体験談は一般的なケースをもとにした構成例です。実際の体験談は順次掲載予定です。
GPS・見守りグッズの活用
近年、小型・軽量のGPS端末が普及し、認知症の徘徊対策として広く使われるようになりました。
| 種類 | 特徴 | 費用の目安 |
|---|---|---|
| 小型GPS端末 | 靴の中・鞄に入れる。スマホアプリで現在地確認。バッテリーは数日〜1週間 | 端末5,000〜2万円+月額500〜1,500円 |
| GPS機能付き時計 | 腕時計型で目立たず、本人の拒否が少ない。転倒検知機能付きも | 端末1〜3万円+月額1,000〜3,000円 |
| スマートフォン見守りアプリ | 本人のスマホにアプリを入れ、位置情報を家族が確認。費用が安い | 月額0〜500円(既存スマホ活用) |
| 市区町村の貸出GPS | 自治体が費用を補助・無料で貸し出し。機種は限定的 | 無料〜月額500円程度 |
- 充電を忘れないよう、毎日決まった時間(夜間就寝中など)に充電するルーティンを作る
- 本人が「監視されている」と感じて拒否する場合は、端末を靴のインソール下や服の内側に縫い込むなどの工夫をする
- スマホの扱いに不慣れな家族でも使えるよう、シンプルな操作のサービスを選ぶ
- GPS端末だけに頼らず、環境整備・地域連携と組み合わせることが重要
地域ネットワークへの登録
徘徊対策で最も効果的なのは、地域全体で見守るネットワークを作っておくことです。
登録しておきたい制度・サービス
- 市区町村の「徘徊高齢者早期発見・保護システム」への事前登録:多くの自治体が行方不明発生時に警察・地域に一斉通報する仕組みを持っている。発生前に登録しておかないと使えない
- 「認知症行方不明SOSネットワーク」:地域の民生委員・自治会・商店・コンビニ・タクシー会社・郵便局などと連携する仕組みを持つ市区町村が増えている
- SOSネットワーク「みまもりあいアプリ」:スマートフォンユーザーがボランティアとして行方不明者の捜索に協力するアプリ
- 警察への事前相談・写真登録:万が一に備えて最近の顔写真と特徴を地域の警察に事前に提出しておくことを勧める自治体がある
お住まいの市区町村でどんな徘徊対策サービスが使えるかは、地域包括支援センターが一番詳しく教えてくれます。まずは電話一本で相談してみましょう。GPSの貸出制度や地域ネットワークへの登録方法を案内してもらえます。
地域包括支援センターに相談したら、市の「徘徊SOS登録制度」を教えてもらいました。父の写真と特徴を登録するだけで、行方不明になった時に地域の民生委員・商店・警察に一斉に情報が行く仕組みです。登録した翌月、本当に父が外へ出てしまったんです。でも30分で近所のコンビニで保護されました。登録していなかったら、と思うと怖いです。「準備は発生前に」――本当にそれだけです。
※体験談は一般的なケースをもとにした構成例です。実際の体験談は順次掲載予定です。
行方不明になったときの緊急対処法
- 【即時】警察に行方不明者届を提出する:「まだ様子をみよう」は絶対にNG。すぐに最寄りの警察署または「110番」へ連絡。24時間・72時間を待つ必要はなく、認知症の行方不明はすぐに受理される
- 【即時】地域包括支援センター・ケアマネジャーに連絡する:地域のネットワークを通じた捜索協力を依頼する
- 【すぐ】最近の顔写真を準備する:警察・地域への情報提供に使う。普段から定期的に写真を撮っておくことが重要
- 【すぐ】過去によく行った場所を捜索する:昔の職場・実家の方向・よく行った公園・川沿い・駅など、記憶に残る場所を重点的に探す
- 【すぐ】近隣・商店・コンビニに写真を見せて協力を求める:「この方を見かけましたか?」と聞いて回る
- 【当日中】SNS・地域のコミュニティグループに情報を共有する:Facebookの地域グループやLINEグループで情報拡散を依頼する
発見・保護後の対応
- 発見したらまず体温・体の状態を確認する(低体温・熱中症・怪我の有無)
- 「なぜ出て行ったんだ」と責めない。混乱しているため穏やかに接する
- 警察への連絡が終わったら、ケアマネジャーに報告し再発防止策を相談する
- 再発防止のため、今回の徘徊の原因(どこに行こうとしていたか・何時頃か)を記録しておく
- 月1回以上、顔がはっきり写った写真を撮っておく(最新の状態を更新)
- 市区町村の事前登録サービスに申し込んでおく
- 近隣・商店・コンビニに顔写真と連絡先を渡しておく
- 本人の身体的特徴(身長・体重・特徴的なほくろや傷など)をメモしておく
- かかりつけ医・ケアマネジャー・警察の電話番号を緊急連絡先としてまとめておく
夫が庭に出たと思ったら姿がなくて。最初の1時間は自分で近所を探し回ってしまいました。でも見つからなくて、やっと110番しました。警察の方が「もっと早くに連絡してほしかった」と。その言葉が忘れられません。6時間後、2駅先の駅で保護されました。冬の夜で、低体温寸前だったそうです。あの経験から、翌週すぐに地域の登録をして、靴にGPSを入れました。「もしも」の準備は、まだ何も起きていない今日するものです。
※体験談は一般的なケースをもとにした構成例です。実際の体験談は順次掲載予定です。
まとめ
- 徘徊は「理由なき行動」ではなく、本人の不安・記憶・不快感が原因。理解することが対策の起点
- 玄関センサー・補助錠・GPS・地域ネットワーク登録の組み合わせが最も効果的
- GPSは自治体の無料・補助制度を活用できる。地域包括支援センターに相談を
- 行方不明発生時は「すぐ警察に届出」。72時間待つ必要はない
- 事前準備(写真更新・登録・近隣への情報共有)は今日できる最大の徘徊対策
よくある質問
Q:徘徊を完全に防ぐことはできますか?
A:完全な予防は非常に難しいですが、リスクを大幅に下げることはできます。最も重要なのは「早期発見できる仕組みを作ること」です。出て行くことを完全に封じ込めようとすると、本人のストレスが高まりかえってBPSDが悪化することがあります。「出て行っても早期発見・保護できる」体制を地域全体で整えることが現実的な対策です。
Q:認知症の親が「閉じ込められた」と訴えて怒ります。どうすればよいですか?
A:セキュリティ対策は本人にとって「自由を制限される」と感じさせることがあります。「外を危険にしているのはあなたのため」というアプローチより、「一緒に散歩に行こう」「デイサービスで出かけよう」と外出欲求を満たす方向で対応するほうが受け入れられやすいです。外出欲求そのものを否定せず、安全な形でかなえる工夫をしましょう。
Q:夜中に外に出ようとします。どうすれば夜間の徘徊を防げますか?
A:昼夜逆転が原因のことが多いため、①日中の活動量を増やす(デイサービス・散歩)、②日光を浴びる時間を作る(体内時計のリセット)、③夜の就寝環境を整える(暗くて静かな部屋)、④必要に応じて主治医に睡眠薬・抗精神病薬の処方を相談することが効果的です。また玄関センサーの設置で、夜間の外出を家族がすぐに察知できる体制を整えることも重要です。
- 警察庁「令和4年における行方不明者の状況」→ https://www.npa.go.jp/
- 厚生労働省「認知症施策推進大綱」→ https://www.mhlw.go.jp/
- 公益社団法人 認知症の人と家族の会
- 各市区町村 高齢者福祉課(徘徊高齢者SOSネットワーク)