認知症とは?種類がある理由
「認知症」とは、脳の神経細胞が何らかの原因でダメージを受け、記憶・判断・言語・行動などの認知機能が低下し、日常生活に支障をきたす状態の総称です。
重要なのは、認知症は「一つの病気」ではなく、さまざまな原因で起こる症状の集まり(症候群)だという点です。原因となる脳の病気の種類によって、最初に現れる症状も、進行の仕方も、使える薬も、そして介護での対応方法も大きく異なります。
65歳以上の約15〜17%が認知症を抱えていると推計されています。2040年には約584万人(現在の約1.3倍)になるとも予測されており、誰もが当事者になりうる時代です。「どの種類の認知症か」を知ることが、適切なケアと治療の第一歩です。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症(Alzheimer's Disease)
割合:認知症全体の約60〜70%(最多)
原因:脳にアミロイドβやタウタンパク質が蓄積し、神経細胞が徐々に死滅
発症:65歳以上に多い(65歳未満の若年性もあり)
主な症状と特徴
アルツハイマー型の最大の特徴は、記憶障害から始まることです。特に「エピソード記憶(出来事の記憶)」の障害が目立ち、「さっき食事をしたこと」「昨日何をしたか」を忘れるという形で現れます。一方で、幼少期の記憶や長年の習慣は比較的保たれやすい傾向があります。
- もの忘れ:同じことを何度も聞く、食事をしたことを忘れる
- 見当識障害:今日の日付・季節・場所がわからなくなる
- 実行機能障害:料理の手順が組み立てられない、家電の操作がわからなくなる
- 言語障害:「あれ」「それ」が増え、言葉が出にくくなる
- 徘徊・迷子:中期以降、見慣れた道で迷うことがある
進行の特徴と治療
アルツハイマー型はゆっくりとなだらかに進行します。軽度→中等度→重度と段階的に進み、初期は「物忘れが多い?」と思う程度でも、10年前後で重度に至るケースが多いです。コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジルなど)で進行を遅らせることが可能で、早期に使い始めるほど効果的です。
母が「さっき食べたでしょ」と言っても「食べてない」と言い張ることが増えて、最初は嘘をついていると思って腹が立ってたんです。でも診断を受けて「本当に記憶がない」とわかってから、見方が変わりました。記憶がないまま「食べてない」と感じているのは、本人も不安なはず。今は「もうすぐご飯だよ」と答えるようにしています。「認知症の種類」を知ることで、なぜそういう行動をするかが理解でき、ずいぶん楽になりました。
※体験談は一般的なケースをもとにした構成例です。実際の体験談は順次掲載予定です。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症(Dementia with Lewy Bodies / DLB)
割合:認知症全体の約20%(2番目に多い)
原因:神経細胞内に「レビー小体」という異常なタンパク質が蓄積
特徴:パーキンソン病とも関連が深い
主な症状と特徴
レビー小体型は、アルツハイマー型とは異なる独特の症状が現れます。アルツハイマー型だと思い込んで対応を誤るケースも多いため、次の特徴を覚えておいてください。
- 認知機能の日内変動:「朝はしっかりしているのに夕方はぼんやり」という波が激しい。一日の中でも別人のように変わることがある
- 幻視(リアルな幻覚):「部屋に知らない人がいる」「虫が這っている」など、本人には本物に見える幻覚が繰り返し現れる
- パーキンソン症状:手足のふるえ、筋肉のこわばり、歩行がすり足になる、転びやすいなど
- レム睡眠行動障害:夢の中で叫んだり手足を激しく動かしたりするため、夜中に怪我をすることがある
- 自律神経症状:便秘・立ちくらみ・失神など
- 一部の抗精神病薬で重篤な副作用が出やすい(過敏症反応)。薬を処方される前に必ず主治医に「レビー小体型です」と伝えること
- 幻視を「嘘をついている」「おかしい」と否定すると症状が悪化することがある
- 転倒・骨折リスクが高いため、住環境の整備(手すり・滑り止め・段差解消)が最優先
- パーキンソン病の診断から後にDLBとわかるケースもある
父が「部屋に子どもが2人いる」と言い出した時、最初は「いないよ!」と否定していました。父は怖がって興奮するし、私は疲弊するしで最悪でした。専門医から「幻視は本人には本物に見えているので否定しないで」と言われてから、「もう行ったみたいだね、大丈夫だよ」と声をかけるようにしたら、父が落ち着くようになりました。薬のことも「レビー小体型は使えない薬がある」と知って、処方のたびに主治医に確認するようにしています。
※体験談は一般的なケースをもとにした構成例です。実際の体験談は順次掲載予定です。
血管性認知症
血管性認知症(Vascular Dementia / VaD)
割合:認知症全体の約15%(3番目に多い)
原因:脳梗塞・脳出血・慢性的な脳の血流低下による神経細胞の障害
特徴:生活習慣病(高血圧・糖尿病等)との関連が深い
主な症状と特徴
血管性認知症は、脳卒中(脳梗塞・脳出血)の後に発症することが多く、「段階的に悪化する」「良い日と悪い日の差が大きい」という特徴があります。4種類の中で最も「予防」と「進行抑制」が期待できる認知症です。
- まだら認知症:ある機能は保たれているのに、別の機能は著しく低下するという「まだら」な障害が特徴
- 感情失禁:些細なことで急に泣いたり怒ったりする感情のコントロール困難
- 歩行障害:すり足・小刻み歩行で転倒しやすい
- 夜間せん妄:夜間に興奮・混乱が強まることがある
- 抑うつ・意欲低下:引きこもりがちになる
予防と進行抑制
高血圧・糖尿病・脂質異常症・喫煙・肥満などの危険因子を管理することで、発症リスクを下げられます。すでに発症している場合も、再梗塞・再出血を防ぐことで進行を抑制できます。家族のサポートで服薬・血圧測定・食事管理を継続することが重要です。
父は2回目の脳梗塞後から認知機能が急激に落ちました。「段階的に悪化する」と聞いていたので、再発した翌日から「また悪くなる」という恐怖がありました。一番困ったのは感情失禁で、テレビを見て突然泣き出したり、些細なことで激怒したり。「わがままになった」と責めていたんですが、「症状です」とわかってから穏やかに接せるようになりました。今は血圧の管理を二人でしっかりやっています。再発させないことが最大の介護だと思っています。
※体験談は一般的なケースをもとにした構成例です。実際の体験談は順次掲載予定です。
前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症(Frontotemporal Dementia / FTD)
割合:認知症全体の約1〜5%(比較的まれ)
原因:前頭葉・側頭葉の神経細胞が変性・萎縮
特徴:65歳未満の若年性に多い。記憶よりも性格・行動の変化が先行する
主な症状と特徴
前頭側頭型認知症は、記憶障害よりも先に人格・行動の変化が現れるのが最大の特徴です。「性格が変わった」「急に非常識な行動をするようになった」と感じたら、この型も疑ってみてください。
- 脱抑制(反社会的行動):万引き・性的不適切発言など、社会規範を無視した行動(本人に悪意はない)
- 常同行動:毎日同じルートを同じ時間に歩く、同じものを食べ続けるなど、固執した反復行動
- 食行動異常:甘いものへの極端な偏食、過食
- 言語障害:言葉が出にくくなる(進行性非流暢性失語)または言葉の意味がわからなくなる(意味性認知症)
- 共感の欠如:他者の気持ちを理解・配慮することが難しくなる
4種類の症状比較表
| 項目 | アルツハイマー型 | レビー小体型 | 血管性 | 前頭側頭型 |
|---|---|---|---|---|
| 割合 | 60〜70% | 約20% | 約15% | 1〜5% |
| 初期症状 | もの忘れ・記憶障害 | 幻視・認知の変動 | まだら症状・感情失禁 | 性格変化・行動異常 |
| 進行パターン | ゆっくりなだらか | 変動しながら進行 | 階段状に悪化 | 比較的急速 |
| 記憶障害 | 初期から目立つ | 軽度(初期) | まだら | 目立たない |
| 幻視・妄想 | 中期以降あり | 初期から顕著 | あり | 少ない |
| 運動障害 | 後期まで少ない | 初期からあり | 歩行障害あり | 後期に出現 |
| 予防可能性 | 一部(生活習慣) | 困難 | 高い(生活習慣病管理) | 困難 |
| 発症年齢 | 65歳以上が多い | 65歳以上が多い | 60歳以上 | 40〜65歳(若年性多い) |
種類別の介護ポイント
アルツハイマー型の介護で大切なこと
- 同じことを何度聞かれても穏やかに答える:本人は本当に忘れているため、責めても意味がない。「さっき言ったでしょ」は禁句
- スケジュールを一定に保つ:混乱を防ぐため、起床・食事・就寝のリズムを崩さない
- カレンダー・ホワイトボードの活用:今日の日付・予定を視覚的に示すことで見当識を補助できる
- 失敗を指摘しない:失敗しても怒らず、さりげなくフォローする
レビー小体型の介護で大切なこと
- 幻視を否定しない:「いないよ!」と否定すると恐怖が増す。「もう行ったみたいだね」と穏やかにかわす
- 転倒防止が最優先:廊下の手すり・滑り止めマット・段差解消を徹底する
- 薬の副作用に注意:処方前に必ず「レビー小体型です」と伝える。使えない薬がある
- 夜間の見守り体制:レム睡眠行動障害による怪我を防ぐため夜間も注意が必要
血管性認知症の介護で大切なこと
- 生活習慣病の管理:血圧測定・服薬・減塩食のサポートが再発防止に直結する
- 感情失禁への理解:突然泣き出しても「わがまま」ではなく症状。穏やかに寄り添う
- リハビリを継続:残存機能の維持のために作業療法・言語療法が有効
- 再梗塞・再出血のサインを見逃さない:突然の急激な悪化はすぐ救急受診を
前頭側頭型の介護で大切なこと
- 行動の意図を責めない:万引きや暴言も「症状」と理解する。本人に悪意はない
- 常同行動は無理に制止しない:害のない反復行動(毎日同じ散歩など)はそのままにする方がかえって安定する
- 環境の刺激を減らす:過剰な刺激は興奮・混乱を招くため、シンプルな生活環境を整える
- 家族が孤立しやすい:理解されにくい症状のため専門家(精神保健福祉士など)への相談が特に重要
まとめ
- 認知症は「一つの病気」ではなく、原因による4種類がある。種類ごとに症状・薬・介護対応が異なる
- アルツハイマー型(約70%)は記憶障害から。進行抑制薬あり。早期開始が効果的
- レビー小体型は幻視・認知変動・パーキンソン症状が特徴。使えない薬があるため注意
- 血管性認知症は生活習慣病管理で予防・進行抑制が最も期待できる種類
- 前頭側頭型は性格・行動の変化が先行。「なぜこんな行動をするか」は症状の理解から始まる
- 厚生労働省「認知症施策推進大綱」→ https://www.mhlw.go.jp/
- 日本神経学会「認知症疾患診療ガイドライン」
- 国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター「認知症情報サイト」