仕事と介護の両立の現実——なぜ年10万人が離職するのか
総務省の就業構造基本調査(2022年)によると、介護をしながら働く「就業介護者」は日本に約364万人います。一方で毎年約10万人が「介護離職」として仕事を辞めており、その多くが後から「辞めるんじゃなかった」と後悔しています。
なぜ離職するのか。主な理由は3つです。①制度を知らない(介護休業・サービスの存在を知らないまま突っ走る)、②孤立する(誰にも相談できず限界まで追い詰められる)、③「自分でやらなければ」という思い込み(介護の担い手が自分しかいないと信じてしまう)。この3つを解消することが、仕事と介護の両立を実現する出発点です。
最初は「仕事を辞めるしかない」と思っていました。でもケアマネさんに「辞めないでください。辞めると経済的にも精神的にも追い詰められます」と言われて。デイサービスを週4日・訪問介護を毎朝組み合わせて、平日昼間は介護から解放されました。会社にもテレワーク週3日を認めてもらって、仕事しながら在宅介護を続けています。外部サービスに任せる罪悪感は今でもあるけど、続けられているのはサービスのおかげです。
※体験談は一般的なケースをもとにした構成例です。実際の体験談は順次掲載予定です。
最初の発想転換——「自分が介護する」をやめる
仕事との両立に成功している人に共通しているのは、「介護はプロのサービスに任せる」という割り切りです。これは親を見捨てることではなく、介護の質を保ちながら自分が倒れないための合理的な選択です。
自分がやるべきことは、サービスの選択・調整・お金の管理・親との会話時間の確保です。日中の身体的ケア・見守り・食事準備はプロに任せることで、仕事中の集中力も保てます。
- 平日昼間の空白を埋める:デイサービス(週3〜5日)で日中の見守り・食事・入浴をカバー
- 朝夕の隙間を埋める:訪問介護(朝30分・夕30分)で服薬確認・食事補助
- 出張・残業時の備え:ショートステイを月数日確保しておき、緊急時にすぐ使えるようにする
- 遠距離の場合:見守りカメラ+訪問介護で日常状態を確認。月1回帰省で親との時間を作る
ケアマネへの「仕事優先」ケアプランの頼み方
ケアプランを作るとき、多くの人が「何も言わなくても適切に組んでくれる」と思っています。でも実際は、最初に「仕事を続けながら介護したい」という条件を伝えないと、介護者の事情が考慮されないケアプランになりがちです。
- 「平日の9時〜18時は仕事があるため、その時間帯はサービスに対応してほしい」
- 「私に緊急連絡が来る場合は、まずデイサービスか訪問介護に一報入れてから連絡してほしい」
- 「月に数回、残業や出張があります。そのときに使えるショートステイを確保しておきたい」
- 「緊急時の連絡優先順位は:ケアマネ→訪問介護事業所→私の携帯、という形にしたい」
ケアマネジャーは介護保険の申請から日常生活の相談まで幅広く動ける専門職です。「仕事があるから無理です」ではなく、「仕事をしているから、こういう体制にしてほしい」と前向きに伝えましょう。
単身赴任で別の県に住んでいるのに父の介護が始まって、最初は毎週末帰省していました。体力も費用も限界で。ケアマネさんに「仕事があって毎週は帰れない。月1回帰省でやれる体制にしてほしい」と正直に話したら、訪問介護+デイサービス+見守りカメラの組み合わせを提案してくれました。カメラで父の様子を毎日確認できるようになって、精神的にも落ち着きました。ケアマネに「できないこと」を正直に話すのが大事だと思います。
※体験談は一般的なケースをもとにした構成例です。実際の体験談は順次掲載予定です。
介護離職で収入ゼロ、
民間介護保険で備えていますか?
介護のために仕事を辞めると収入が途絶え、介護費用の負担だけが残ります。FPへ無料相談で収支計画を確認しておきましょう。
職場への伝え方と使える制度
「職場に介護のことを知られたくない」という気持ちはよくわかります。ただ、黙って限界まで抱え込む方がリスクは高いです。「急な欠勤が増える→信頼が下がる→結局離職」というパターンが多いからです。
伝えるタイミングと内容
- 詳細を話す必要はない:「家族の介護が必要な状況になりました。しばらく急な対応が必要になることがあります」で十分
- まず人事部に相談:直属の上司より先に人事・総務に相談すると、制度面の確認と職場調整がスムーズになる
- 具体的な影響を伝える:「週1〜2回、17時台に早退が必要になるかもしれません」など、業務への影響を具体的に伝えると理解を得やすい
使える法律上の権利(育児・介護休業法)
| 制度名 | 概要 | ポイント |
|---|---|---|
| 介護休業 | 通算93日(3回分割可)の長期休業 | 給付金あり(賃金の67%) |
| 介護休暇 | 年5日(2人以上は10日)の短期休暇 | 半日・時間単位での取得可 |
| 残業免除 | 介護終了まで残業を完全免除申請可 | 定時退社の権利 |
| 時短・テレワーク | 3年間・2回以上の利用が会社の義務 | 2025年4月改正でテレワーク権利強化 |
緊急時の備えと連絡体制の作り方
仕事と介護の両立を壊す最大の要因は「予期しない緊急事態」です。急な転倒・発熱・徘徊——これらに備える仕組みを事前に整えておくことが、両立継続の生命線です。
- 緊急連絡先の優先順位を決める:デイサービス→訪問介護事業所→ケアマネ→自分の順で設定
- かかりつけ医に「仕事中は直接電話して」と伝えておく:受診の付き添いは不要でも、状況確認の電話は仕事中でも受けられる
- 見守りカメラ・センサーを導入する:スマホで状態確認できれば、仕事中の不安が大幅に減る
- ショートステイを「スポット利用」できる施設を確保しておく:緊急時に使える施設を事前に登録しておくことが重要
- 職場の近くに緊急で動ける人を1人確保する:兄弟・親族・近隣の知人——1人でもいると安心感が全然違う
男性介護者特有の課題と対処法
近年、男性介護者は急増しています。介護者の約4割が男性(内閣府)。しかし男性は「介護のことを誰にも相談できない」という孤立問題を抱えやすい傾向があります。
配偶者の介護って、なかなか人に言えないんです。職場では「管理職なのに…」と思われそうで。2年間ひとりで抱え込んで、本当に精神的に限界でした。地域包括支援センターで「男性介護者の集まり」を紹介してもらって、初めて「同じ状況の人がいる」とわかった。仕事と介護の両立は、「弱さを見せない」をやめることから始まるんだと気づきました。今は週1回のデイサービスと訪問看護で、なんとか続けられています。
※体験談は一般的なケースをもとにした構成例です。実際の体験談は順次掲載予定です。
- 男性介護者向け相談窓口:地域包括支援センター・社会福祉協議会・男性介護者の会(各地域で開催)
- 介護の「家事スキル不足」問題:食事・洗濯など家事に不慣れな場合は、訪問介護で生活援助も依頼できる
- 仕事での地位・評価への影響:2025年の法改正で会社の個別周知義務が強化。「介護で仕事を続けたい」という意思を伝えることへのハードルは確実に下がっている
両立チェックリスト
介護離職を防ぐために、以下の項目を確認してください。
- ケアマネが決まっている
- 週3日以上デイサービス利用中
- 緊急時の連絡先が整理されている
- 介護休暇の存在を知っている
- 職場に介護中であることを伝えた
- ショートステイの緊急利用先がない
- ケアマネに仕事優先を伝えていない
- 見守りカメラを導入していない
- 会社の介護支援制度を確認していない
- 介護休業給付金の要件を知らない
まとめ
まとめ
- 年10万人の介護離職の主因は「制度を知らない・孤立・自分でやるという思い込み」
- 「介護はプロに任せる」という発想転換が仕事との両立を実現する
- ケアマネに「仕事優先ケアプラン」を最初から依頼することが最も効果的な一手
- 職場への詳細説明は不要。「急な対応が必要になることがある」の一言で制度は使える
- 緊急時の連絡体制・ショートステイの確保を事前にしておくことが両立の生命線
- 男性介護者は孤立しやすい。地域包括支援センターや当事者グループへの相談を
- 総務省「令和4年就業構造基本調査」→ 就業介護者数・介護離職者数
- 厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし(令和7年4月1日施行版)」
- 内閣府「令和5年版高齢社会白書」→ 介護者の性別・年齢構成
- 厚生労働省「介護離職ゼロに向けた取り組みについて」