仕事と介護の両立の現実——なぜ年10万人が離職するのか

総務省の就業構造基本調査(2022年)によると、介護をしながら働く「就業介護者」は日本に約364万人います。一方で毎年約10万人が「介護離職」として仕事を辞めており、その多くが後から「辞めるんじゃなかった」と後悔しています。

なぜ離職するのか。主な理由は3つです。①制度を知らない(介護休業・サービスの存在を知らないまま突っ走る)、②孤立する(誰にも相談できず限界まで追い詰められる)、③「自分でやらなければ」という思い込み(介護の担い手が自分しかいないと信じてしまう)。この3つを解消することが、仕事と介護の両立を実現する出発点です。

介護離職の落とし穴:「仕事を辞めれば介護に専念できる」と思って離職すると、経済的な不安・社会的孤立・介護疲れが一気にのしかかります。離職後に収入が減り、介護サービスの費用が払えなくなるという逆効果も起きています。
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中村美恵子さん(仮名)・54歳・事務職(正社員) 母(78歳・認知症・要介護2)の在宅介護と正社員を両立中

最初は「仕事を辞めるしかない」と思っていました。でもケアマネさんに「辞めないでください。辞めると経済的にも精神的にも追い詰められます」と言われて。デイサービスを週4日・訪問介護を毎朝組み合わせて、平日昼間は介護から解放されました。会社にもテレワーク週3日を認めてもらって、仕事しながら在宅介護を続けています。外部サービスに任せる罪悪感は今でもあるけど、続けられているのはサービスのおかげです。

※体験談は一般的なケースをもとにした構成例です。実際の体験談は順次掲載予定です。

最初の発想転換——「自分が介護する」をやめる

仕事との両立に成功している人に共通しているのは、「介護はプロのサービスに任せる」という割り切りです。これは親を見捨てることではなく、介護の質を保ちながら自分が倒れないための合理的な選択です。

自分がやるべきことは、サービスの選択・調整・お金の管理・親との会話時間の確保です。日中の身体的ケア・見守り・食事準備はプロに任せることで、仕事中の集中力も保てます。

「仕事優先」の介護体制に使えるサービスの組み合わせ例
  • 平日昼間の空白を埋める:デイサービス(週3〜5日)で日中の見守り・食事・入浴をカバー
  • 朝夕の隙間を埋める:訪問介護(朝30分・夕30分)で服薬確認・食事補助
  • 出張・残業時の備え:ショートステイを月数日確保しておき、緊急時にすぐ使えるようにする
  • 遠距離の場合:見守りカメラ+訪問介護で日常状態を確認。月1回帰省で親との時間を作る

ケアマネへの「仕事優先」ケアプランの頼み方

ケアプランを作るとき、多くの人が「何も言わなくても適切に組んでくれる」と思っています。でも実際は、最初に「仕事を続けながら介護したい」という条件を伝えないと、介護者の事情が考慮されないケアプランになりがちです。

ケアマネへの伝え方(最初の担当者会議で言うべきこと)
  • 「平日の9時〜18時は仕事があるため、その時間帯はサービスに対応してほしい」
  • 「私に緊急連絡が来る場合は、まずデイサービスか訪問介護に一報入れてから連絡してほしい」
  • 「月に数回、残業や出張があります。そのときに使えるショートステイを確保しておきたい」
  • 「緊急時の連絡優先順位は:ケアマネ→訪問介護事業所→私の携帯、という形にしたい」

ケアマネジャーは介護保険の申請から日常生活の相談まで幅広く動ける専門職です。「仕事があるから無理です」ではなく、「仕事をしているから、こういう体制にしてほしい」と前向きに伝えましょう。

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木村拓哉さん(仮名)・48歳・SE(単身赴任中) 父(77歳・要介護1)の介護を遠距離でマネジメント

単身赴任で別の県に住んでいるのに父の介護が始まって、最初は毎週末帰省していました。体力も費用も限界で。ケアマネさんに「仕事があって毎週は帰れない。月1回帰省でやれる体制にしてほしい」と正直に話したら、訪問介護+デイサービス+見守りカメラの組み合わせを提案してくれました。カメラで父の様子を毎日確認できるようになって、精神的にも落ち着きました。ケアマネに「できないこと」を正直に話すのが大事だと思います。

※体験談は一般的なケースをもとにした構成例です。実際の体験談は順次掲載予定です。

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職場への伝え方と使える制度

「職場に介護のことを知られたくない」という気持ちはよくわかります。ただ、黙って限界まで抱え込む方がリスクは高いです。「急な欠勤が増える→信頼が下がる→結局離職」というパターンが多いからです。

伝えるタイミングと内容

使える法律上の権利(育児・介護休業法)

制度名 概要 ポイント
介護休業 通算93日(3回分割可)の長期休業 給付金あり(賃金の67%)
介護休暇 年5日(2人以上は10日)の短期休暇 半日・時間単位での取得可
残業免除 介護終了まで残業を完全免除申請可 定時退社の権利
時短・テレワーク 3年間・2回以上の利用が会社の義務 2025年4月改正でテレワーク権利強化
💡 2025年4月施行の育児・介護休業法改正で、会社は介護を担う従業員に対して個別に制度を周知する義務を負いました。「制度の説明を受けていない」という場合も、人事部に「説明してほしい」と伝える権利があります。

緊急時の備えと連絡体制の作り方

仕事と介護の両立を壊す最大の要因は「予期しない緊急事態」です。急な転倒・発熱・徘徊——これらに備える仕組みを事前に整えておくことが、両立継続の生命線です。

男性介護者特有の課題と対処法

近年、男性介護者は急増しています。介護者の約4割が男性(内閣府)。しかし男性は「介護のことを誰にも相談できない」という孤立問題を抱えやすい傾向があります。

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橋本誠一さん(仮名)・57歳・営業管理職 妻(52歳・難病・要介護3)の介護と管理職を両立

配偶者の介護って、なかなか人に言えないんです。職場では「管理職なのに…」と思われそうで。2年間ひとりで抱え込んで、本当に精神的に限界でした。地域包括支援センターで「男性介護者の集まり」を紹介してもらって、初めて「同じ状況の人がいる」とわかった。仕事と介護の両立は、「弱さを見せない」をやめることから始まるんだと気づきました。今は週1回のデイサービスと訪問看護で、なんとか続けられています。

※体験談は一般的なケースをもとにした構成例です。実際の体験談は順次掲載予定です。

両立チェックリスト

介護離職を防ぐために、以下の項目を確認してください。

✅ できていること(継続)
  • ケアマネが決まっている
  • 週3日以上デイサービス利用中
  • 緊急時の連絡先が整理されている
  • 介護休暇の存在を知っている
  • 職場に介護中であることを伝えた
⚠️ まだできていないこと(要対応)
  • ショートステイの緊急利用先がない
  • ケアマネに仕事優先を伝えていない
  • 見守りカメラを導入していない
  • 会社の介護支援制度を確認していない
  • 介護休業給付金の要件を知らない

まとめ

まとめ

  1. 年10万人の介護離職の主因は「制度を知らない・孤立・自分でやるという思い込み」
  2. 「介護はプロに任せる」という発想転換が仕事との両立を実現する
  3. ケアマネに「仕事優先ケアプラン」を最初から依頼することが最も効果的な一手
  4. 職場への詳細説明は不要。「急な対応が必要になることがある」の一言で制度は使える
  5. 緊急時の連絡体制・ショートステイの確保を事前にしておくことが両立の生命線
  6. 男性介護者は孤立しやすい。地域包括支援センターや当事者グループへの相談を
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参考・出典
  • 総務省「令和4年就業構造基本調査」→ 就業介護者数・介護離職者数
  • 厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし(令和7年4月1日施行版)」
  • 内閣府「令和5年版高齢社会白書」→ 介護者の性別・年齢構成
  • 厚生労働省「介護離職ゼロに向けた取り組みについて」
※ 本記事は2025年4月施行の育児・介護休業法改正を反映しています。法改正により内容が変わる場合があります。詳細はハローワーク・都道府県労働局にご確認ください。