ケアマネジャーは、いつでも変えられます
「どうも話しにくい」「頼んだことが進まない」。そう感じながらも、言い出せないまま何か月も過ごしている——そんなご家族は少なくありません。「お世話になっているのに失礼では」「気まずくなったら親が困るのでは」と考えると、口に出すのがためらわれます。
この記事は介護保険の使い方を完全解説(申請の流れ・自己負担・サービス)の一部です。介護保険そのものの仕組みから確認したい方は、こちらをどうぞ。
まず、いちばん大事なところをお伝えします。ケアマネジャー(介護支援専門員)は、利用者側の意思でいつでも変更できます。契約期間の途中でも構いませんし、理由を細かく説明する義務もありません。我慢して続けなければならないものではない、ということです。
ただし、この記事でお伝えしたいのは「すぐ変えましょう」ということではありません。変更が最善とは限らない場面もあるからです。長く関わってきた担当者は、ご本人の生活や家族関係の背景をよく知っています。それを一度リセットすることには、それなりのコストもあります。
そこでこの記事では、①変えたほうがいいサイン、②いったん様子を見てよいケース、③実際に変えると決めたときの2つのルートと伝え方、の順に整理します。「変える/変えない」を、感情ではなく判断軸で決められる状態にするのがゴールです。
「変えたほうがいい」と感じるサイン
相性の問題は人それぞれですが、次のような状態が繰り返し起きている場合は、担当を替えることを具体的に検討してよい段階と考えられます。一度きりの行き違いではなく、「何度伝えても変わらない」かどうかが目安です。
- 連絡がつかない・返答が極端に遅い…電話しても折り返しがない、急ぎの相談が数日放置される
- こちらの希望を聞かずにプランが決まる…気づいたら内容が確定していて、説明が事後になる
- 特定の事業所ばかりを勧める…「他の選択肢も知りたい」と伝えても比較の材料が出てこない
- 制度の説明をしてくれない…使える制度や負担軽減の仕組みを尋ねても、あいまいな回答しか返らない
- 高圧的で話しにくい…質問しづらい、意見を言うと不機嫌になる、本人の話を遮る
- 状態が変わっても見直してくれない…転倒や退院、介護者の就労状況の変化を伝えてもプランが動かない
とくに最後の「状態が変わっても見直してくれない」は、介護の質に直結します。介護は状況が変わり続けるものなので、変化に合わせてプランを組み替えることが、ケアマネジャーの中心的な役割のひとつとされています。ここが止まっていると、ご家族の負担だけが静かに増えていきます。
いったん様子を見てよいケース
一方で、変更しても状況が変わらないケースもあります。次の3つに当てはまるときは、いきなり替えるより、まず一度伝えてみるほうが早く解決することがあります。
- プランの内容自体は妥当で、不満は「話し方」「雰囲気」など相性の部分にある
- 要望がまだ具体的に伝わっていない(「もっと手伝ってほしい」など抽象的なままになっている)
- 断られた理由をきちんと聞いていない
- 同じことを2〜3回伝えても、対応も説明も変わらない
- 連絡そのものが成り立たない(折り返しがない)
- 本人が「あの人には会いたくない」と強く言っている
「できない」と言われたことに、制度上の理由があることも
見落とされやすいのが、ケアマネジャーが意地悪をしているのではなく、制度上できないことを断っているケースです。たとえば、次のような依頼は、介護保険のサービスとしては認められにくいとされています。
- 同居家族がいる場合の生活援助(掃除・調理など)は、家族の状況によって利用が制限されることがあります
- 本人以外のための家事(家族全員分の食事づくり、家族が使う部屋の掃除など)
- 草むしり、ペットの世話、大掃除など、日常生活の援助の範囲を超えるとされるもの
- 支給限度額を超える利用(超えた分は全額自己負担になります)
これらを断られたとき、「融通が利かない人だ」と感じてしまうことがあります。けれど、ルールを外れた使い方を通してしまうと、後で費用を全額請求されるなど、結果的にご家族が不利益を受けることもあります。断られたときは、「どうしてできないのか、根拠を教えてもらえますか」と一度聞いてみてください。説明できるかどうかが、判断の分かれ目になります。
変更には2つのルートがある
「ケアマネを変える」と一口に言っても、やり方は2つあります。この違いを知らないまま「事業所ごと変えるしかない」と思い込み、手続きの大きさに尻込みしてしまう方が少なくありません。まず全体像を見てください。
選び分けの考え方はシンプルです。「事業所そのものは信頼できるが、担当者との相性が合わない」ならルート①。「事業所の方針や体制そのものに疑問がある」ならルート②。この一点で、まずは仮に決めてしまって構いません。
ルート① 同じ事業所内で担当者を交代してもらう
意外と知られていないのが、この方法です。居宅介護支援事業所には複数のケアマネジャーが在籍していることが多く、同じ事業所のなかで担当者を替えてもらうことができます。事業所を変えずに済むため、手続きの負担はいちばん小さくなります。
- 事業所の管理者(責任者)に連絡する…担当ケアマネジャー本人ではなく、事業所の代表番号にかけて「管理者の方はいらっしゃいますか」と伝えます
- 担当交代をお願いしたいと伝える…「担当を替えていただくことは可能でしょうか」で十分です。理由を詳しく述べる必要はありません
- 新しい担当者と顔合わせをする…事業所内での引き継ぎは通常、事業所側が行います
- 現在のサービス内容を確認する…利用中のデイサービスや訪問介護に変更がないか、念のため確認しておくと安心です
- 記録や経緯が引き継がれやすい…同じ事業所内なので、これまでの支援記録やご本人の背景が残ります
- 書類の手続きが少ない…事業所との契約は続くため、原則として契約そのものの結び直しは発生しません
- サービスが途切れにくい…利用中の事業所との調整も、そのまま引き継がれます
ルート② 別の事業所に変更する
事業所の方針そのものが合わない、担当を替えても状況が変わりそうにない——そう感じるときは、居宅介護支援事業所ごと変更する方法があります。新しい事業所を探し、契約を結び、前の事業所を解約する、という流れです。
新しい事業所の探し方
- 地域包括支援センター…地域の居宅介護支援事業所の一覧をもらえます。相談は無料です
- 市区町村の介護保険窓口…同じく事業所リストを扱っています。手続き面の確認もあわせてできます
- 利用中のサービス事業所…デイサービスや訪問介護の職員は、地域のケアマネジャーの様子をよく知っています
- 病院の医療ソーシャルワーカー…入退院を経験している場合は、相談しやすい窓口です
- 介護サービス情報公表システム…事業所の所在地や規模を、自分で調べることもできます
担当が替わるこの機会に、
介護費用の見通しも整えておく
プランを組み直すタイミングは、費用を見直す好機でもあります。「いくらまでなら続けられるか」の目安を、FPに無料で相談できます。
問い合わせのときに確認しておきたいこと
電話をかけるときは、事情を長く説明する必要はありません。「現在ケアマネジャーの変更を考えていて、新しくお願いできる事業所を探しています」と伝えれば通じます。そのうえで、次を確認しておくと選びやすくなります。
- 今、新規の受け入れができるか…担当できる人数には上限があるため、時期によっては難しいこともあります
- 自宅がその事業所の対応範囲か…訪問できる地域が決まっている場合があります
- いつから担当してもらえるか…開始日が決まると、前の事業所への連絡時期も決められます
- 手続きは何が必要か…市区町村への届出書類など、事業所側が案内してくれることが多いです
- これまでと違う視点で提案が入りやすい
- 事業所の方針そのものを選び直せる
- 前の担当者と顔を合わせずに済む
- 新規契約と解約、2つの手続きが必要
- これまでの経緯が伝わりきらないことがある
- 引き継ぎを自分でも補う準備がいる
変更先の事業所が見つからない、新しい人を受けてもらえないときの探し方は、ケアマネジャーが見つからない・引き受けてもらえないときで解説しています。
角が立たない伝え方(例文)
いちばん気が重いのが、この場面だと思います。ただ、実際にはひと言で足ります。長く説明するほど、かえって言いにくくなります。そのまま使える言い方を3つ挙げます。
- ① 担当ケアマネジャー本人に(事業所を変える場合)
「これまでありがとうございました。家族の状況が変わり、別の視点で見ていただきたいと考えています。○月から別の事業所にお願いすることにしました」 - ② 事業所の管理者に(同じ事業所内で交代する場合)
「いつもお世話になっております。担当の方を替えていただくことは可能でしょうか。ご相談させてください」 - ③ 地域包括支援センターに(間に入ってもらう場合)
「ケアマネジャーの変更を考えているのですが、直接伝えるのが難しくて。相談に乗っていただけますか」
ポイントは、不満を理由にしないことです。「家族の状況が変わったので」「別の視点で見ていただきたくて」という言い方であれば、誰も否定されません。そもそも、理由を細かく説明する義務はありません。「事情がありまして」で止めても、失礼にはあたりません。
- 不満を並べて責める…変更は決定事項なので、蒸し返しても得るものが少なく、引き継ぎがぎくしゃくする原因にもなります
- 何も言わずに新しい事業所と契約する…給付管理が二重になるなど、事務上の行き違いが起きることがあります。開始日は必ず共有します
- 本人の意向を確認しないまま進める…ご本人が担当者を信頼していることもあります。可能な範囲で気持ちを聞いてから決めましょう
母のことで相談しても「様子を見ましょう」ばかりで、半年間なにも動きませんでした。でも事業所を変えるのは大ごとに思えて、言い出せずにいたんです。地域包括に相談したら「同じ事業所の中で替えてもらう方法もありますよ」と教えていただいて。管理者さんに電話して「担当を替えていただけませんか」とだけ伝えたら、あっさり「承知しました」と。新しい方は初回から具体的な提案をくださって、こんなに違うのかと驚きました。もっと早く言えばよかったです。
※実在の方の体験談ではありません。よくある状況をもとに編集部が構成した例です。
変更のタイミングと、実務でやること
変更は月の途中でも可能です。ただし、介護保険の給付管理は月単位で行われるため、実務上は月末〜月初の区切りに合わせるとスムーズなことが多いとされています。急ぎでなければ、「来月から新しい事業所で」と決めてしまうのがいちばん整理しやすい形です。
- 新しい事業所を決め、開始日を確認する…「○月1日から」と決めると、以降の連絡が組み立てやすくなります
- 現在の事業所に伝える…担当者本人か管理者へ。開始日を伝えると、引き継ぎの準備をしてもらえます
- 新しい事業所と契約する…重要事項の説明を受け、契約書を交わします
- 市区町村への届出を確認する…「居宅サービス計画作成依頼(変更)届出書」の提出が必要な場合があります。事業所が代行してくれることも多いので、どちらが出すかを必ず確認します
- 利用中のサービス事業所に連絡する…デイサービス、訪問介護、福祉用具など。「担当が替わりました」と伝えておくと連絡が滞りません
- 新しい担当者とケアプランを確認する…引き継ぎ後、内容に変更がないかを一緒に見ておきます
引き継いでほしい情報をメモにしておく
事業所を変える場合、引き継ぎは事業所間で行われるのが一般的です。ただし、紙の記録に残っていない情報ほど、実は大事だったりします。「夕方になると不安が強くなる」「この人には心を開いている」といったことは、書類には書ききれません。
そこで、A4用紙1枚でいいので、ご家族の側でもメモを用意しておくことをおすすめします。新しい担当者に渡せば、最初の1か月の理解がまったく変わります。
- 既往歴・現在の病気…主治医名、通院先、通院の頻度
- 服薬の状況…薬の管理を誰がしているか、飲み忘れの有無
- 生活リズム…起床・就寝の時間、食事の様子、日中の過ごし方、調子を崩しやすい時間帯
- 本人の希望・大事にしていること…「家にいたい」「風呂は自分で入りたい」など、譲れない部分
- 家族の事情…介護できる曜日と時間、就労状況、遠方に住む家族の有無、費用の上限
- これまで試して合わなかったこと…同じ提案を繰り返さずに済みます
変えてもうまくいかないとき
担当を替えても状況が改善しない、あるいは変更そのものに応じてもらえない。そうしたときは、相談先を外に広げる段階です。ひとつの事業所のなかで解決しようとし続けると、消耗してしまいます。
- 地域包括支援センター…もっとも身近な公的窓口です。事業所の紹介から、間に入っての調整まで幅広く相談できます(相談は無料)
- 市区町村の介護保険担当課…制度の解釈、届出の手続き、事業所の運営に関わる相談先です。事業所への指導監督を担う立場でもあります
- 国民健康保険団体連合会(国保連)…介護サービスに関する苦情の申立てを受け付ける窓口が設けられています。市区町村と役割を分担しており、事業所への調査や指導につながることがあります
- 運営適正化委員会など…都道府県の社会福祉協議会に置かれ、福祉サービスに関する苦情の相談を受け付けています
言い出すまでに3か月かかりました。結局「家族の事情が変わりまして」とだけ伝えたら、拍子抜けするくらいあっさり「承知しました、引き継ぎますね」と。身構えていた自分が少し情けなかったです。新しい事業所には、父の一日の流れと「風呂だけは自分で入りたい」という希望を紙にまとめて渡しました。初回の面談でその紙を見ながら話してくださって、最初から話が早かった。変えること自体より、伝える準備のほうが大事だったと思います。
※実在の方の体験談ではありません。よくある状況をもとに編集部が構成した例です。
まとめ:話しやすい相手であることは、大事な条件です
- ケアマネジャーは利用者側からいつでも変更できます。理由を細かく説明する義務もありません
- ただし、制度上できないことを断られている場合もあります。「根拠を教えてください」と一度聞いてみる
- 方法は2つ。同じ事業所内で担当交代(手続きが軽い)/別の事業所に変更(視点が変わる)を、事業所への信頼が残っているかで選ぶ
- 伝え方は「家族の状況が変わり、別の視点で見ていただきたい」で十分。言いにくければ管理者や地域包括支援センターに間に入ってもらう
- タイミングは月末〜月初の区切りが実務上スムーズ。引き継ぎメモを自分でも用意しておくと、最初の1か月が変わります
介護は、何年も続いていくものです。だからこそ「困ったときに、この人になら言える」と思えるかどうかは、単なる好みの問題ではなく、介護を続けていくための条件だと考えています。合わないまま我慢し続ける必要はありません。まずは地域包括支援センターに「実は」と話してみるところから、で大丈夫です。
- 厚生労働省「介護・高齢者福祉」→ https://www.mhlw.go.jp/
- 厚生労働省「介護保険制度の概要」→ https://www.mhlw.go.jp/
- 厚生労働省「介護サービス情報公表システム関連(サービスの種類)」→ https://www.mhlw.go.jp/
- 厚生労働省「介護報酬(居宅介護支援の給付の取り扱い)」→ https://www.mhlw.go.jp/
- 厚生労働省「地域包括ケアシステム(地域包括支援センター)」→ https://www.mhlw.go.jp/
- 国民健康保険中央会(国民健康保険団体連合会に関する情報)→ https://www.kokuho.or.jp/