復職は「元の生活に戻ること」ではありません

介護休業が終わりに近づくと、多くの方が「明日から、また前と同じように働かなければ」と身構えます。けれど復職とは、休業前の生活に戻ることではありません。介護という新しい役割を抱えたまま、新しい体制で働き始めることです。ここを取り違えたまま復職すると、無理が続いて数か月で行き詰まってしまうことがあります。

休業中は、平日の日中に病院へ付き添えました。ケアマネジャーからの電話にもすぐ出られました。デイサービスのお迎えにも間に合いました。その前提が、復職と同時にすべて崩れます。それなのに介護の中身だけは休業前と同じ、では計算が合いません。「自分が頑張れば何とかなる」と考えるほど、破綻は早く来ます。

ですから復職前にやるべきことは、気合いを入れ直すことではなく、「自分がいない平日の日中を、誰が・どのサービスで埋めるのか」を先に決めておくことです。そのうえで、休業が終わった後も使える制度を知っておく。この2つが揃っていれば、復職後の生活はずいぶん違ったものになります。

💡 復職日を「介護の体制が整った日」に合わせられるなら、それがいちばん安全です。難しい場合でも、復職の初週にいきなり残業や出張を入れない、最初の1か月は様子を見る期間と割り切る、といった余白の作り方はできます。

復職1〜2週間前にやっておきたい3つの準備

復職の直前は気持ちが落ち着かない時期ですが、この1〜2週間に手を打っておくかどうかで、その後の数か月の負担がかなり変わります。優先度の高い順に3つ挙げます。

① ケアマネジャーと、勤務時間に合わせてケアプランを組み直す

休業中のケアプランは「家族が日中いる」前提で組まれていることがほとんどです。復職が決まったら、できるだけ早くケアマネジャーに連絡し、「何時に家を出て、何時に帰るのか」「その間、誰も家にいない時間帯がどこか」を具体的に伝えてプランを組み直してもらいます。

ここで大事なのは、ケアマネジャーに遠慮しないことです。「仕事に復帰するので、この時間帯を埋めたい」というのは、ケアプランを組み直す正当な理由です。伝え方に迷うときは ケアマネジャーとの上手な付き合い方 もあわせてご覧ください。

② 緊急時の連絡体制を「三者」で決めておく

復職後にいちばん心が削られるのは、「勤務中に何かあったらどうしよう」という不安です。これは、あらかじめ経路を決めておくことでかなり軽くできます。職場・親族・ケアマネジャー(および事業所)の三者で、次のことを共有しておきましょう。

  1. 一次連絡先を自分以外にも作る:日中は自分に繋がりにくいことを事業所に伝え、第二連絡先として同居家族・きょうだい・近くの親族を登録しておく
  2. 「すぐ動くべきこと」と「後で報告でよいこと」を線引きする:転倒・発熱・救急搬送は即連絡、日常の細かな相談は夕方以降のメールや連絡ノートに、といった区別を事業所と決めておく
  3. 職場側の受け皿を作る:上司と、できれば同じ業務を知る同僚1人に「急な連絡が入る可能性がある」ことだけ伝え、抜けたときに誰が引き継ぐかを決めておく
  4. 連絡先を1枚にまとめる:主治医・ケアマネ・事業所・親族・職場の番号を1枚の紙にして、自分の手帳と自宅の目立つ場所に置く

③ 勤務先に「何を・どこまで」伝えるか整理しておく

職場への共有は、多く話せばよいというものではありません。病名や家庭の事情まで細かく説明する義務はなく、伝えるべき軸は次の2つに絞れます。

職場に伝える内容の目安
  • 制度を使うために必要な情報:誰を介護しているか、今後どのくらいの頻度で休みや早退が必要になりそうか
  • 緊急連絡の取り扱い:就業中に電話を受けてよい時間帯・手段、急な抜けが起きたときの引き継ぎ先
  • 逆に、無理に共有しなくてよいこと:診断名の詳細、家族関係の事情、介護費用のこと

どこまで話すか迷うときは、先に人事担当窓口に「制度を使うために必要な情報はどこまでですか」と確認する方法もあります。上司への具体的な切り出し方は 介護と仕事の両立 で扱っています。

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よくあるケース 母の介護で介護休業を取得し、時短勤務で復職

復職の3週間前にケアマネさんに連絡して、デイの曜日を勤務日に合わせてもらいました。それでも復職して最初の2週間は、事業所からの電話が怖くて仕事が手につかなくて。上司に「日中はこの番号に繋がります」「急に抜けたらこの案件を引き継いでください」とだけ伝えたら、そこからだいぶ楽になりました。全部を話す必要はなかったんだと思います。

※実在の方の体験談ではありません。よくある状況をもとに編集部が構成した例です。

93日が終わっても使える制度がある

「介護休業の93日を使ったから、もう会社の支援は終わり」と思い込んでいる方は少なくありません。けれど実際には、介護休業とは別枠で、復職後も継続して使える両立支援の仕組みがあります。休業が終わる=支援が終わる、ではありません。

介護休業93日を使い切った後も、介護休暇・所定外労働の免除・時短勤務等の措置・深夜業の制限・テレワークといった制度が別枠で残ることを示した図
図: 介護休業(93日)を使い切った後も、別枠で残る両立支援制度の全体像。制度の詳しい要件は勤務先の就業規則をご確認ください。

それぞれの制度の要件・日数の数え方・申請書類などの詳細は、介護休業・介護休暇の制度をフル活用する方法 で個別に解説しています。ここでは「復職後の生活のどこに効くか」という観点だけ整理しておきます。

復職後の困りごとと、当てはめやすい制度の対応
・通院の付き添いで半日だけ抜けたい → 介護休暇(時間単位)
・夕方のヘルパーの時間に間に合わない → 所定外労働の免除/時差出勤
・毎日1時間早く帰りたい → 短時間勤務等の措置
・夜間の見守りがあり深夜勤務が難しい → 深夜業の制限
・家にいる時間そのものを増やしたい → テレワーク(2025年4月から事業主の努力義務)
⚠️ 制度の名称・適用要件・社内の呼び方は勤務先によって異なります。また、労使協定によって対象外となる働き方もあります。ご自身が使えるかどうかは、勤務先の就業規則・人事担当窓口、または都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)にご確認ください。

介護休業を「全部使い切らない」という戦略

介護休業は対象家族1人につき通算93日まで、原則3回を上限に分割して取得できるとされています。この「分割できる」という点は、復職を考えるうえでとても重要です。

介護は、始まった直後がいちばん大変に感じます。けれど実際には、介護のいちばん重い局面は、始まりよりも後の方に来ることが多いのです。急な入院、施設入居の申し込みと手続き、そして看取りの時期。こうした「どうしても仕事を離れないと動けない期間」は、たいてい後からやってきます。

だからこそ、最初の混乱期に93日をまとめて使い切ってしまうと、本当に必要になったときに手札が残っていない、という事態になりかねません。「今、休業を使わずに済ませられないか」を一度考えてみるだけでも、その後の選択肢は変わります。

🗓 まず休業を使いたい局面
  • 介護の体制づくり(認定申請・ケアマネ選び・サービス導入)にまとまった時間が要る
  • 退院直後で在宅の生活が安定していない
  • 他に代われる家族がどうしてもいない
💡 残しておきたい局面(後から来る)
  • 看取りの時期・終末期のケア
  • 急な入院と、その後の退院調整
  • 施設入居の申し込み・見学・引っ越しの手続き
  • 介護者自身が倒れ、体制を組み直す必要が出たとき
休業を温存するための考え方
  • 「日数」で解決しようとする前に、「サービス」で解決できないかを先に検討する(ショートステイ・訪問回数の増加など)
  • 数日〜数時間で足りる用事は、休業ではなく介護休暇・有給・時間単位の制度で対応する
  • 今の残日数・残り回数を把握しておく(人事担当窓口に確認し、メモに残す)
  • ただし、限界まで我慢して残すのは本末転倒です。今つぶれそうなら、今使うのが正しい判断です
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時短勤務にすると収入はどう変わる?
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復職後によくあるつまずきと、その対処

復職して1〜3か月の間には、制度の話とは別の、気持ちの面でのつまずきが起きやすくなります。ここでつまずいたまま我慢を重ねると、半年後に「もう辞めるしかない」という結論に一気に飛んでしまうことがあります。よくある4つを挙げます。

つまずき①:急な呼び出しが続いて、仕事の予定が立たない

デイサービスの体調不良による早めのお迎え要請、転倒の連絡、病院からの電話。こうした呼び出しが月に何度も続くと、自分の予定が組めなくなります。対処としては、「呼び出しの記録をつけること」が意外に効きます。いつ・どんな理由で・何分抜けたかを残しておくと、ケアマネジャーに「この時間帯の見守りを厚くできませんか」と具体的に相談でき、上司にも状況を数字で説明できます。

つまずき②:残業できないことへの引け目

「みんな残っているのに自分だけ帰る」という感覚は、想像以上に消耗します。ただ、所定外労働の免除も介護休暇も、法律に基づいて認められた権利であり、後ろめたく思う必要のあるものではありません。むしろ、制度を使わずに無理を重ねて突然離脱するほうが、職場にとっても影響が大きくなります。

つまずき③:同僚との距離が開いていく

休業中の空白、早退の多さ、飲み会に出られないこと。これらが重なると、悪気なく距離が生まれます。全部を埋めようとする必要はありませんが、「引き継ぎを丁寧にする」「戻ったときに一言添える」という最低限の積み重ねが、結果的に自分を守ります。

つまずき④:評価や昇進への不安

時短や残業免除を選ぶと、評価がどうなるのか不安になるのは自然なことです。ここで大事なのは、一人で抱えて推測しないことです。上司との定例的な共有の場を作り、現在の状況と見通しを短く報告するのが有効です。月1回15分でも構いません。介護の状況は変わっていくものなので、「今はこうだが、いつ頃には見直せそう」という見通しを共有できると、双方の不安が減ります。

⚠️ 我慢のサインが出ていたら、早めに手を打ってください
  • 睡眠が続けて取れない日が2週間以上続いている
  • 職場でも家でも、感情が出にくくなってきた
  • 介護のことを考えると、動悸や涙が出る
  • 「自分さえ我慢すれば」という言葉が頭から離れない

これらは、体制を組み直すべきサインです。介護者自身の消耗については レスパイトケアとは?介護者が休む5つの方法 もあわせてご覧ください。

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再び限界が来たときの選択肢の順番

復職後に、また「もう続けられない」と感じる時期が来ることがあります。そのとき多くの方がいきなり「辞めるしかない」に飛んでしまうのですが、離職の前に試せる手は、順番に並べるといくつも残っています。焦っているときほど、この順番を紙に書いて確かめてみてください。

  1. 介護サービスを増やす:まずケアマネジャーに「今のプランでは仕事が続けられない」と伝え、ショートステイの定期利用、夜間対応型の訪問介護、訪問回数の増加などを検討します。支給限度額を超える分の費用も含めて、増やせる余地を確認しましょう
  2. 働き方を変える:短時間勤務・フレックス・時差出勤・テレワーク、それでも足りなければ部署異動や職務の変更を相談します。「辞める」の前に「変える」の余地がないかを、人事担当窓口に確認します
  3. 介護休業の残りを使う:分割の残り回数・残日数があれば取得を検討します。対象家族が別の人であれば、その家族について新たな枠があるとされています
  4. 施設入居を検討する:在宅を続けること自体が限界に近い場合は、施設という選択肢を具体的に調べ始めます。申し込みから入居まで時間がかかることも多いため、限界の手前で動き始めるほうが選べる幅が広がります
  5. それでも難しければ、離職を検討する:ここまで試したうえでの判断であれば、後悔は小さくなります。ただし収入・再就職・年金への影響を必ず確認してから決めてください
⚠️ 離職は「いちばん効く手」に見えますが、実際には収入が途絶えたうえで介護が全部自分に集中するという状態になりやすく、想定より苦しくなることがあります。判断の前に 介護離職とは|後悔する人の共通点と、離職を防ぐ制度・給付金 を一度読んでみてください。

また、在宅を続けるかどうかの判断そのものに迷っている場合は、在宅介護の限界サイン が判断の材料になります。「限界かどうか」を自分の感覚だけで決めなくて済むよう、目安を持っておくと楽になります。

93日を使い切ってしまった場合に確認したいこと

すでに介護休業の93日を使い切ってしまっている方もいらっしゃると思います。その場合でも、まだ確認できる手段があります。大切なのは、自己判断で「もう何もない」と結論を出さず、人事担当窓口に一度まとめて聞いてみることです。

◎ まず確認したい社内の仕組み
  • 介護休暇(年5日/2人以上で10日・時間単位)の残り
  • 年次有給休暇の残日数と、時間単位年休の可否
  • 失効した年休を積み立てて介護に使える制度(企業により有無が異なります)
  • 法定を上回る独自の介護休業・休職制度
  • 時短・フレックス・テレワークの適用範囲
△ 最後の手段として考えるもの
  • 欠勤(収入が減り、評価にも影響しうる)
  • 無給の休職制度(社会保険料の扱いを要確認)
  • 介護者自身が体調を崩した場合の傷病手当金(本人の療養が対象で、介護のための休みには使えません)

ここで挙げた社内制度は、あるかどうかが会社によって大きく違います。就業規則の「休暇」「休職」の章を一度通して読み、わからない部分は人事担当窓口にまとめて質問するのが早道です。制度の適用について会社と話が噛み合わない場合は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談する方法もあります。

💡 社外にも相談先があります。介護サービスの増量や体制の組み直しは、担当のケアマネジャーと、お住まいの市区町村・地域包括支援センターが窓口です。「仕事を続けたいので、この時間帯を埋めたい」と目的を先に伝えると、話が具体的に進みやすくなります。詳しくは 地域包括支援センターとは?無料で使える介護相談窓口 をご覧ください。
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よくあるケース 父の介護で休業を使い切り、退職を考えていた

休業を全部使ってしまって、もう辞めるしかないと思っていました。ただ、辞める前にと思って人事に聞いてみたら、うちには失効した有給を積み立てて介護に使える制度があると言われて。知らなかっただけでした。あわせてケアマネさんにショートステイを月1回定期で入れてもらって、今はなんとか続けられています。聞いてみるまで、選択肢がないと思い込んでいました。

※実在の方の体験談ではありません。よくある状況をもとに編集部が構成した例です。

まとめ:一人で抱えず、制度と人を組み合わせる

  1. 復職は「元に戻る」ことではなく、介護と仕事の新しい体制で働き始めること
  2. 復職1〜2週間前に、ケアプランの組み直し・緊急連絡体制・職場への共有範囲を整える
  3. 93日が終わっても、介護休暇・残業免除・時短・深夜業の制限・テレワークは別枠で残る
  4. 介護休業は分割できる。看取り期や入院など、後から来る局面のために残す考え方もある
  5. 再び限界が来たら、サービス増 → 働き方の変更 → 休業の残日数 → 施設 → 最後に離職の順で検討する
  6. 使える制度は会社ごとに違う。一人で結論を出す前に、人事担当窓口とケアマネジャーに聞く

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参考・出典
  • 厚生労働省「仕事と介護の両立支援(育児・介護休業法)」→ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/index.html
  • 勤務先の就業規則・人事担当窓口(社内独自の休暇・休職制度の有無、適用範囲の確認先)
  • 都道府県労働局 雇用環境・均等部(室)(制度の適用について会社と話が進まない場合の相談先)
  • お住まいの市区町村の介護保険担当窓口・地域包括支援センター(サービスの組み直し・相談先)
※ 介護休業・介護休暇などの両立支援制度は、法令の改正や労使協定の内容、勤務先の就業規則によって適用範囲・日数の数え方が異なります。本記事は一般的な考え方をまとめたものであり、個別の可否を判断するものではありません。ご自身に適用される内容は、勤務先の人事担当窓口または都道府県労働局にご確認ください。