ダブルケアとは何か

「ダブルケア」とは、育児(子どもの世話・教育)と介護(高齢の親・義親の世話)を同時に担う状態を指します。どちらか一方でも大変なのに、両方を一人の人間が担うことで、時間・体力・お金・精神力のすべてが同時に削られる——それがダブルケアの本質です。

日本では晩婚化・晩産化が進んだ結果、30代後半〜40代で子育て中に、70〜80代の親の介護が重なるケースが急増しています。「まさか自分がなるとは思わなかった」という声が多いのも、この問題の特徴です。

💡 内閣府の調査(2016年)によると、ダブルケア状態にある人は全国で約25万3千人と推計されています。そのうち女性が約17万1千人(約68%)を占めており、特に30〜40代の女性に集中しています。(出典:内閣府「育児と介護のダブルケアの実態に関する調査」)
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田中裕子さん(仮名)・43歳・パート勤務 2歳の息子と義母(78歳・要介護2)のダブルケア歴2年

息子のイヤイヤ期が始まったのと、義母が転倒して骨折して要介護になったのが同じ時期でした。保育園の送迎帰りに義母のデイサービスの連絡対応をして、夕食を義母と息子に別々に作って——気づいたら毎日何かに終われていて、自分が何をしたいのかもわからなくなっていました。「ダブルケア」という言葉を知って、これには名前があるんだと気づいてから、少しだけ楽になりました。

※体験談は一般的なケースをもとにした構成例です。実際の体験談は順次掲載予定です。

ダブルケアの実態と急増する背景

なぜ今、ダブルケアが増えているのでしょうか。主な要因は3つあります。

①晩婚化・晩産化の影響

2023年の日本の平均初婚年齢は男性31.1歳・女性29.7歳で、30年前と比べて約3〜4歳上がっています。35歳で子どもを産んだ場合、子どもが10歳になるころには親は75〜80歳。介護が必要になる年齢に重なります。

②核家族化で「代わりに担う人」がいない

かつては祖父母や親戚が近くに住み、育児も介護も分担していました。現代は核家族が標準で、夫婦どちらかが「全部担う」ことになりやすい。しかも遠距離の場合、移動コストと時間コストまで加わります。

③女性への偏りという構造問題

現状では育児も介護も、担い手は女性に偏りがちです。ダブルケアになった女性の多くが、仕事のペースを落とすか退職を選んでいます。その経済的損失は個人にとどまらず、社会全体の問題です。

年代 育児の状況 介護が重なりやすいシナリオ
30代前半 0〜5歳の乳幼児期 親が70代前半・突然の事故や病気での要介護化
30代後半〜40代前半 小学校〜中学生 親が75〜80歳・認知症発症・要介護認定申請
40代後半〜50代 高校生・大学生 親が80代・在宅限界・施設移行の検討

ぶつかりやすい5つの壁

ダブルケアの当事者が「最もきつい」と語る困難には、共通したパターンがあります。具体的に見ていきましょう。

壁①:時間の壁——24時間が足りない

子どもの保育園送迎・食事・寝かしつけは時刻が決まっています。親のデイサービスの送り出しも時刻が決まっています。両方がぶつかる時間帯、どちらを優先するか毎日決断が求められます。

時間管理のヒント
  • デイサービスの送迎時間を、保育園の送迎と重ならない時間帯に調整してもらう(ケアマネに相談)
  • 介護ヘルパーの訪問時間を、自分の仕事時間・保育園送迎時間と重ねる
  • 週のどこかに「バッファの日」を作り、急な対応に備える

壁②:体力の壁——消耗が止まらない

乳幼児の夜泣きで寝不足が続く一方で、介護でも夜間対応が必要になることがあります。体力の回復が追いつかず、体を壊してしまうダブルケア当事者も少なくありません。

⚠️ 介護者が倒れると、育児も介護も同時に機能不全になります。「自分が倒れたらどうなるか」を常に念頭に置き、自分の体を守ることが家族全体を守ることと意識してください。

壁③:お金の壁——二重の出費

育児費用(保育料・学費・習い事)と介護費用(デイサービス・訪問介護・施設費など)が同時にかかります。特に介護保険適用前の手続き中期間や、保険外サービスの費用は予想以上の負担になります。

壁④:職場の壁——理解されにくい

「育児休業」は制度として認知されていますが、「介護休業」は使いにくいと感じる人が多い現実があります。上司や同僚に「また休むの?」という視線を浴び、仕事を続けることへの罪悪感が積み重なります。

壁⑤:孤立の壁——わかってもらえない

育児グループでは介護の話が通じない。介護者の会では育児の話が通じない。どのコミュニティにも「完全には属せない」孤立感が、精神的な消耗を加速させます。

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村上健司さん(仮名)・38歳・会社員 生後8か月の双子と父親(71歳・要介護1)のダブルケア中

双子の育児だけでもヘトヘトなのに、父が脳梗塞で倒れて在宅介護が始まりました。会社には育児休業で半分在宅だったので「休んでるんだから介護もできるでしょ」という空気がありましたが、育児休業中に双子の横で父の入浴介助をする生活は本当に無理がありました。ケアマネに相談して週4回のデイに切り替えてもらってから、ようやく息ができるようになりました。

※体験談は一般的なケースをもとにした構成例です。実際の体験談は順次掲載予定です。

使える支援サービス

ダブルケアは「一人でやるもの」ではありません。介護側と育児側、それぞれに使える支援をフル活用することが、持続可能な介護・育児の条件です。

介護保険サービス(介護側)

育児支援(育児側)

職場で使える制度

  1. 介護休業(93日):対象家族1人につき最大93日、3回に分けて取得可能。育児休業と併用できる。
  2. 介護休暇(年5〜10日):1日・半日単位で取得可能。通院付き添い・急な対応に使いやすい。
  3. 介護のための短時間勤務:1日6時間への短縮勤務を3年間申請できる(育児の短時間勤務とは別枠)。
  4. 子の看護休暇:子どもの病気・けがのとき年5〜10日取得可能。介護休暇と合わせて活用する。
💡 育児・介護休業法は2025年に改正が施行され、介護休業の取得要件が緩和されました。在職6か月未満でも取得できるようになったケースがあります。勤務先の担当者か、都道府県労働局の雇用均等室に確認してください。

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費用の現実と家計の備え

ダブルケアの最大のストレス要因の一つが「お金」です。育児費用と介護費用が重なる時期の家計は、綿密に整理しておくことが精神的な安定にもつながります。

費目 月額の目安 軽減できる手段
保育料(0〜2歳) 3〜6万円/月 世帯収入に応じた減額・無償化(3歳〜)
介護保険サービス利用料(1割負担) 1〜3万円/月 高額介護サービス費(上限超過分を返還)
介護保険外サービス(ヘルパー・見守り等) 1〜5万円/月 自治体の補助・NPO活用
施設入居費(グループホーム等) 10〜15万円/月 特養申し込み・補足給付制度
学費・習い事(小学生以上) 2〜5万円/月 就学援助・奨学金(先行申し込み)

特に大きな負担になるのが、介護保険サービスの自己負担と保育料が完全に重なる「0〜2歳の育児×在宅介護」の時期です。この時期の家計を事前にシミュレーションしておくことが、後悔のない判断につながります。

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ダブルケアの時期は支出が急増します。生命保険・医療保険・就業不能保険を今の家族構成に合わせて整理することで、月々の保険料を抑えつつ保障を厚くできるケースがあります。FPへの相談料は0円です。

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万一に備える保険の見直しと同時に、使える公的制度を先取り登録しておくことも重要です。高額介護サービス費の申請・医療費と介護費の合算制度(高額介護合算療養費)は申請しないと受け取れません。担当ケアマネに確認してください。

限界を感じたら——「助けて」と言う勇気

ダブルケアの当事者の多くが、SOSを出すタイミングを「もっと早ければよかった」と振り返ります。「まだ大丈夫」と思っているうちに体か心が先に折れてしまうのが、ダブルケアのリスクです。

次のどれか一つでも当てはまるなら、今すぐ誰かに相談してください。

⚠️ 上記のような状態は「弱さ」ではありません。これだけのことを一人で担ってきた結果として当然出てくる反応です。気づいたことは、限界の前に動けているサインです。
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「介護をプロに任せることは親を捨てることではない」——これはダブルケアの当事者が最も苦しむ誤解です。プロのサービスを活用することで、あなたが子どもと向き合う時間・親と穏やかに話す時間が増えます。

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中村幸恵さん(仮名)・51歳・パート勤務 高校3年生の子どもと両親(父83歳・母79歳)のダブルケア歴3年

子どもの受験と父の入院が重なった昨年の秋は、本当に地獄でした。入試説明会を父の入院手続きでキャンセルして、家に帰ったら母が転んでいて、受験生の娘に「また介護なの」って言われたとき、声を出して泣いてしまいました。でも地域包括支援センターに電話して「どうにもならない」と正直に言ったら、翌週からショートステイを手配してもらえました。「もっと早く電話すればよかった」と今でも思います。

※体験談は一般的なケースをもとにした構成例です。実際の体験談は順次掲載予定です。

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ダブルケアで介護保険サービスを利用する場合、デイサービスや施設はお住まいのエリアによって選択肢が大きく異なります。まずはお近くの情報を確認してみましょう。

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まとめ

ダブルケアを乗り越えるために今できること

  1. ダブルケアには名前がある——「自分だけが大変」ではなく、25万人が同じ状況にいる
  2. 介護保険サービス(デイ・訪問介護・ショートステイ)を先に手配して、物理的な余白を作る
  3. 育児側も一時保育・ファミサポ・トワイライトステイを事前登録しておく
  4. 職場の介護休暇・育児・介護の短時間勤務を組み合わせ、就労を維持する
  5. 育児費+介護費が重なる時期の家計をシミュレーションし、保険・公的補助を見直す
  6. 「消えたい」「もう無理」と思ったら、地域包括支援センターに電話する——今すぐ動けるサインだ

ダブルケアは「どちらかを犠牲にする」ことで解決するものではありません。介護のプロに任せる部分、育児の支援を使う部分、職場の制度を使う部分——それぞれを組み合わせることで、あなたが誰にとっても「いてよかった」と思える状態を維持することができます。

介護のサービス全般については介護サービスの全体像と選び方、仕事と介護の両立については仕事しながら介護を続けるために知っておくこともあわせてご覧ください。

参考・出典
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法律・介護・医療アドバイスではありません。個別のご状況については、地域包括支援センター・担当ケアマネジャー・社会保険労務士にご相談ください。